公立を1本で受け、落ちたら2次募集で拾ってもらう。滑り止めの私立は父親に却下されたらしい。僕もそれでいいと思った。ついに受験の日を迎えたが、試験は概ね順調で、問題はムラの多い内申だった。1週間後の発表日、僕は志望校に合格したことを知った。母親がとても喜んでいたが、僕は大きく安堵したものの、その後に控えている大きな約束にすでに意識が移っていた。
2週間後に卒業式。1次に合格していれば、僕は卒業式までの間に小島さんと会う。小島さんにとってそれは“最後”の僕だった。その約束の日はとても重かった。合格発表日の夜に、僕は小島さんに電話した。合格を告げると、彼はとても喜んでくれた。約束通り逢えます、と僕は言った。その途端、小島さんは黙った。
長い沈黙の中で、受話器から時々小島さんの息遣いが聞こえる。こんな時はお互いなにを言っても虚しいのかもしれない。生きている人には完全な沈黙はないらしい。こんなに黙っていても何かが溢れてきている。それを僕は聞いていた。しばらく聞いた後で僕は口を開いた。
「小島さん、友達って、どういう関係なんですか?」
「あ…え?」
「前にも聞いたんですが、友達になるにはどうしたらいいか教えてください」
「なんだそれ」
「友達ってなにかなって」
「…なり方なんかねぇよ」
「そうなんですか」
「いつの間にかなってるもんなんだよ。自然にな」
「いますか?」
「…いた」
小島さんは過去形で答えた。



