僕を止めてください 【小説】




「僕は成績いいんだね」
「得意な科目はとてもいいわよ。え?…なんで? 」
「理科と英語は苦手なのは知ってるけど、成績表あんまり見たことないし」
「え…?」
「お母さんに渡しちゃうし」
「学校でもらったらすぐに見てるんじゃないの?」
「見てない。親に渡すものだって思ってた」
「あ…もう! なにそれ! 自分の成績はちゃんと見なさい!」

 変なことを怒られる羽目になった。

「じゃあ、今の成績でどこの医学部に行けるか先生に訊けばいいね」
「あぁ、そうね…でもね裕、大学より先に高校の志望校選ぶのが先よ」
「あ…そうか。盲点だった」
「医学部に強い公立がいいけど、滑り止めに私立も考えておいたほうが良いのかしら。お父さんに相談しないと…」

 お父さん…
 僕はその存在を忘れていた。

「お父さんになにを相談するの?」
「学費のこと。公立はいいけど、私立はやっぱり学費が高いから」
「そうか。じゃあ公立にする」
「滑り止めは必要でしょ」
「滑り止め…?」
「希望の公立の試験落ちたときの保険に、少し偏差値の低い安全圏の私立を受けるのよ」
「偏差値…」
「模試の偏差値とかわかってないわね…そしたら」
「わかってない」
「夏休みに受けたでしょ。成績返ってきてるんでしょ」
「そう思う…」
「あなたも高校探しておきなさい」
「わかった」
「三者面談の前に志望校だけは絞っておかないとね」
「そうなんだ」
「それで? どんな志望理由にするの?」
「自分の興味を……社会の正義のために生かしたい…とか?」
「へぇ…それっぽい。それでいきましょう」

 小島さんの言ったことは役に立った。でも僕は受験について具体的なことをあまりわかっていなかった。僕はいままでやったことのなかった分野に手を付けなければならないことを知った。