僕を止めてください 【小説】




「あのね、担任の先生に“屍体に興味がある”とは言えないかと思うのよね」

 数日して母親が、三者面談の打ち合わせを求めてきた時、僕は軽いデジャブに襲われた。これは僕が手首切った時に医者にどう説明するかを検討した言い回しの完全リメイク版ではないか。

「だからなんか正当な理由を考えなきゃ」

 母親が危機的状況下でどんな風に対処するのかというあるパターンを発見した気分だった。いや、危機的状況下というのは、ただ“非常識な僕の行為への現実的な対処”に過ぎないんだけど。

 デジャブもさることながら、あれ? と僕は思った。あのときうろたえてた母親がすでに“法医学者希望”ありきで考えてくれてるような発言だったからだ。この期間、落ち着け落ち着けと呪文を唱えながら、僕の希望を納得してくれていたんじゃないだろうか。考えてみれば、前回医者の前で一緒についた嘘も、僕の事を考える努力をしてくれてたんだな…と。そしてそれは小島さんが提案してくれた“嘘でもいいから”言わないといけない効果的な言い訳を、一般人の担任と共有しようという母親の戦略だった。母と小島さんって同じこと考えてるんだ、と、その一致に僕は驚いた。

「僕の言ったこと考えててくれたんだ」
「…そうするしかないでしょ。他に選択肢ないって言われたら」
「うん…ない」
「まぁ、裕は教科によってとてもムラはあるけど、成績は平均すれば良いからね。今からすごーく頑張ればもしかしたら無理じゃないかもしれない。でも、すごーく頑張らなきゃなんないよ?」

 そんな評価だったんだ、と僕はちょっと安心した。