「ごめんなさい。面倒くさいこと言いました。もっと考えてから相談します。おやすみなさい」
「ああ…裕…悪い。ついイラッとしちまった。でもよ…俺……」
「どうかしましたか?」
「ああ…なんつーか…嬉しかったわ。相談してくれて」
「そうですか? よかった。迷惑は承知で思わず訊いてしまいました。だって他にこんなこと相談できる人いないですから」
「まあ、そりゃそうだ。わかったよ。なんか俺も考えとくわ」
「いいんですか? ありがとうございます」
「うん。まぁ、お前の将来のことは俺も心配だから…親にも相談…出来んわな。こんなことよ」
「さっき母にざっと話したら絶句してました。呪文みたいに落ち着け落ち着けって唱えてたし。こんなこと全部言ったわけじゃなくて。自分が死ぬより、屍体を扱えばいいって言ったんですが。逆効果だったみたいです」
「ああ…そりゃダメだわ。嘘でもいいから“社会正義のために自分の興味を生かしたい”とか言わねーと」
「あっ…嘘ついていいんですか?」
「お前は嘘つけないんだっけ?」
「いえ、状況が切迫していて必要なら嘘はつけます」
「じゃあ、そうしろ。今がその時だ。もう遅いけど」
「でも、言ってみます。ありがとうございます」
「ああ…がんばれ」
「はい。おやすみなさい」
「今度いつ会える?」
「中間終わったらですかね。10月15日には終わります」
「なげーな…あと一週間かよ」
「大事な試験らしいんで」
「まあ、そっちもがんばれ」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
特に回答は出なかったが、なんとなく落ち着いた。そして自分が将来のことについて考えていることが不思議に思えた。



