僕はその晩、寝る前に小島さんに電話した。2コールですぐ出てくれた。小島さんは電話に出るのがいつも早い。
「おう。裕か。珍しいな、お前から掛かってくるって」
「夜分すみません」
「まだ寝てねーよ。知ってるだろ」
小島さんは笑った。
「そうですか。あの、聞いて欲しいことがあって」
「ええっ? マジか!」
「ええ、本当です」
「いや…感動するわ。お前が俺に聞いて欲しいことがあるとか、奇跡だわ。ああ、二度目か」
「すみません。そんな風に言ってくれると言いやすいです」
「いやいやそういう意味じゃなく…なんだよ。なにかあったか?」
小島さんは少し不安げな声になった。
「あの…進路指導があるんです。中3なんで」
「まぁ…あるよな」
「それで母親と担任の先生と僕で三者面談が来週あって」
「ほう」
「僕…生産とか整備とかおよそ興味なくて、これから自分で生活していくのにどんな仕事すればいいかよくわかんなかったんです」
「てか、考えたことあったのかよ、お前がさ」
「ありません」
「だと思った」
「それで、僕、以前松田さんに刑事とか法医学者になれば事件の解決に役立つとか、そういうこと言われたんですが…」
「ああ…あのオカルトだろ。お前が非科学的に自殺と他殺の区別つくっていう」
「はい」
「お前は霊能者か」
「いえ、警察犬とかですかね」
「犬かよ」
「人間にはわからない、ものすごく微細な匂いを嗅ぎ当てるでしょ。そういう感じだと思うんです」
「ああ…そう」
小島さんは半分呆れていた。



