「この半月、お前に逢わない間、俺はその怖さに耐えらんなくて、毎日飲んだくれてた。寺岡が時々俺に付き合って飲んでくれてて…そしたらあいつが言ったんだ…その子は自分が生きてることを知らないんだよって」
「僕が…ですか…」
「俺は違うって言った。あいつはあいつなりに生きてることを知ってるって。でも、その生きてることを受け入れらんねぇんだって。でも寺岡は、俺がお前を屍体として扱えば扱うほどお前はただのこの世の通訳だ、って。それは当たってるなって思った」
サラリーマンの人はそれをわかっていたのか、とちょっと驚いた。だから僕を生きてる人間として扱おうとしたんだと。
「そして言ったんだわ…その子に会ってみたいって。出来れば抱いてみたいって。俺はその時“逃げられる”って思った。何もかもやめてお前から逃げられるって。寺岡は他人のものを盗るのが大好きなんだ。好きなだけじゃない。どうにでもたらしこめる。本気で天才的なんだよ、あのイカレ野郎は。だから初めて会った時、ボコボコにしてやったんだけどな」
「そうなんですか…わからなかった」
「わからないのはお前だけだろうよ。でもその時の俺の頭はまともなこと考えらんなかった。たらしこめたらいい、と思ってる反面、裕に勝てる奴はいねぇよとか思ったり、お前を知らない奴に抱かせて…傷つけてやりたい…とも思った。それでも、お前が寺岡に気持ちが動かない場合、俺はまたその恐怖で震えるんだろうな、とも思った」
「恐怖…って?」
「お前から逃げらんねぇ怖さだよ」



