僕を止めてください 【小説】





 小島さんは愕然とした顔で僕を見ていた。僕の手は宙で空を切った。がっくりと小島さんが頭を垂れた。両手で自分の頭を抱えて。

 助けてくれないんだ…どうして…? どうして…隆…?

 僕の手はだらんとソファから垂れ下がった。すぐに伸ばしたこの手を掴んで小島さんは僕をこの人の身体の下から引きずり出してくれると思っていた。でもそれは違った。小島さんは僕を見ることすらやめた。逃げたの? 僕を罰してるの? 違う…違うんだ。

 そうか。そうだよね。だって僕はそんな期待を望めない人間だから小島さんに選ばれたんだから。そうだった。僕は自分の世界を見ていればいいんだった。振り向かないこと、それこそが小島さんを救う可能性だったんだ。

 これはしてはいけないことだった。小島さんは苦しんでるんだ。頭を抱えて。それでは一体今日のこの部屋ではなにが起きているの? 僕がどうすれば正解になるの?わからない。わからないよ。答えが…ない…

「なあ、小島君。君、この子のこと、誤解してないか?」

 そのとき、サラリーマンの人の、低い声が聞こえた。