僕を止めてください 【小説】




 本当はもっと感じる身体になってたはずだった。でも今日は違った。佳彦とも小島さんともこの人は違っていた。状況はあの日によく似ていた。佳彦の役を小島さんが替わりにやって、サラリーマンの人がその時の小島さんの立場だった。あの時はなにも疑問に思わず、ただ起きたことを受け入れていた。今もそれはあまり変わってはいない。いないけれど、僕は途中でいなくなった佳彦のことをほとんど気にしてはいなかった。それなのに今は、無表情な顔をして座っている小島さんのことが気になって仕方がない。これは一体なんの実験なんだろうか? 実験だと思っているのは実は僕だけなんじゃないのか。

 それとも

 小島さんはあの日の佳彦みたいに、僕をこの人に譲ろうとしているのか? 僕との関係にもう耐えられなくなって? それで僕とこの人の相性を量っているんだろうか。

 舌が僕の亀頭に絡みつく。急に性器が張り詰める。それも長くは続かない。また半分になる。それでも彼は口の中で執拗に性器を玩ぶ。陰嚢を指で嬲る。されながら、僕は小島さんを眺めていた。その時、不意に目が合った。

 目が合った瞬間、僕の目から涙がこぼれた。

(助けて)

 僕は目の中でそう囁いた。知らない人はもういい。もういいんです。僕は小島さんでいいんです。

 好きか嫌いかなんてわかりません。でも僕はいま、なんだかとても居心地が悪いです。あの時小島さんに初めて抱かれたのに、僕はそんなこと感じませんでした。他の子だったらもっと小島さんを愛したんでしょう。だけど僕はそんな風に生きてる人を好きになれない。そんな僕でほんとにごめんなさい。

 でも、それでもきっと、僕は生きている人の中で、小島さんがいちばんいいです。だから、助けて下さい。僕を生きた人間として扱う人はもういいんです。だから…

(たす…け…て…)

 僕は知らないうちに小島さんに向かって手を伸ばしていた。それを見た小島さんが目を見開いた。