「終わるまで待ってて!」
晴れた日の夕暮れだった。館内には蛍の光が流れている。約束通り本を貸してくれるという。約束だったのか、と、僕はぼんやり思った。ロビーの椅子に腰をおろして窓の外の夕焼けをぼんやりと見ていた。なんでこんなことになるのかよくわからない。
「ごめんね。遅くなった。じゃあ、出ようか」
「はい」
僕と彼は非常口から図書館を出た。
「こっち。車の中にあるんだ」
彼はそう言うと、建物の裏手の駐車場に僕を手招きした。黒いシボレーのワゴンがぽつんと一台停まっていた。彼は助手席のドアを開けた。
「どうぞ。座っててよ」
「ああ、はい」
そして彼は反対にまわり運転席のドアを開けた。座席の上には黒いトートバッグが置いてあり、彼はそれを取って僕に手渡した。
「中見てよ。これだよ」
バッグの代わりに彼がそこに座った。僕はカバンの中から大判の本を取り出した。B4の変型版。写真集?。表紙はどこの国の言葉かわからない。ドイツ語?ギリシャ語?真っ黒な表紙に、白抜きで『Suicidium cadavere』とあった。僕は表紙を開いた。



