「濁火くん」
特に何か用があるわけでもないが、私は彼に話しかける。

「なんか楽しいことないかな」
特に続ける言葉が思いつかなかったので適当に言葉を紡ぐ。

「探さなきゃないでしょ」
彼は呆れたように言う。

「それもそうか」
私はいわゆるコミュ障というやつで、人と話すのは極端に苦手なのであった。
しかし、彼こと濁火カラシに対してだけはどうにかまともなコミュニケーションがとれるのであった。(それでも3歳児と5歳児どっちがうまく話せるか比較するようなものだが)

「お前、そうやって無理に人と話そうとするのやめたら」
私が次の言葉を発しようと悪戦苦闘している様子を見かねて彼は言う。
「なんで」
私はそれに対してこの前読んだ「猿でも分かる人との会話マニュアル」の、「5W1Hで質問する」という項目を思い返しながら彼に返答する。

「だってお前、人と話してる時より一人でいる方が楽しそうだし」
「でもまともに人と話せないなんて動物と一緒じゃん。私が動物と一緒だったら私のことを人間扱いしてくれる人なんか一生現れない」
私はそう言うと、クラスでの私の立ち位置を思い出した。

まともに人と話せないので、もちろん友達は一人もいない、言い返せないことをいいことに陰口は言いたい放題にされているし散々だ。
何も喋らないから空気、なんて言っている人はコミュ障のなりたがりだ。真のコミュ障は空気にすらなれない。

「またネガティブなことばかり考えて。できないことをできるようになりたいのは分かるけど、それじゃ角を矯めて牛を殺すようなもんだぞ。お前はもっと自分のいいところを伸ばせよ」

「よく言うよ」

そっちだって私以外の人と会話できないくせに。