ギターの音…。
ドラムの音…。
めまいがするくらいの大勢の観客たち。
うるさいくらいの歓声。
暑くて眩しいスポットライト。
目を閉じ、集中する。
緊張で高鳴る鼓動に意識を集める。


ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…。


さっきの、うっとおしい雑音はどんどん遠く…聞こえなくなっていき、
自分の心臓の音だけが聞こえる。

…いけないことってわかってる。
バレたらどうなるのかぐらい、子供でバカな私にでもわかる。

それでも…

私を助けてくれた、君を……

いつも、助けてもらってばっかりだった私が、
今度は君を助ける番なんだっ。


スタンドマイクに近づく。
そのまま、マイクを握ると再びあの雑音が戻ってきた。


…みんな、ごめん。
私…やっぱり、あの人を助けたいんだ。


そして、決心したように目を開け、息を吸いこむ。


…その時の顔には、迷いがなくまっすぐで自身に満ち溢れていた。