洗面台の鏡の前に立ってからかなり時間がたっている。
迷いと、彼を待たせているという焦りが女の子の表情を険しくしていた。
私は、結局、メイクであの子に近づけたこの顔を崩さなくてはならない。そして、嫌いな私の顔を彼に見せなくてはならない。
ベッドの中でこんなに濃い化粧は、マナー違反、だ……。
女の子は意を決して顔をお湯に浸した。
ベッドルームに戻ると、彼はテレビを見ていた。かなりディープな映像の中で男の人が女の人の名前を何度も連呼している。
その名前を聞いて身体が冷えた。
けれど、恐る恐る覗いた彼の表情はいつもと変わらずで、女の子はなんだか無性に切なくなるのだ。
『せいな』
映像の男の人は間隔をあけては何度も呼び続ける。
胸が締め付けられる想いで彼の隣に座った。
せいな……。
この世で一番聞きたくない名前。
綺麗で聡明なせいな…。
彼の好きだったひと。

