日も大分傾いてきた。
「そろそろ行くか」
もうそこに先ほどまでの男女は居なくなっていて、私は、仕事用の鞄を持ち直して歩き出した。
あの時のことはもう立派な大人となった今でも、思い出して胸が疼く。
無理もないか。
だって、あれが私の青春だったんだもの。
苦い青春だった。
もっと甘い経験しとけば良かったな、と苦笑いを浮かべる。
…孝介は…今ごろ何してるかな…。
そんな、いつもは考えないことを考えてしまうのはこの懐かしい夕日のせいだ。
「ママー!」
遠くから愛おしい声が聞こえた気がして振り向けば、こちらに向かって走ってくる我が子を見つけた。
「駿斗!」
顔が綻ぶのを止められない。
あれから私は結婚をして、子どもがふたり出来た。今、とても幸せなのだ。
「ママおかえりー」
「ん~!ただいま~!」
堪らなくなって、ぎゅっと抱き締めた。
「ママくるしい!」
「ごめんごめん~!あれ、どっか行ってたの?」
「うんっ!おばあちゃんがかいものにつれていってくれた!なんでもすきなものかっていいって!」
「あ~お母さんごめんね~。突然出勤頼まれちゃって~」
「今朝も聞いたよ」
何言ってんの、そう笑うお母さんにはまたシワが足されてる。

