「あ、鈴木さんに、電話してよ」
野島がぱっと顔を輝かせる。


「あの人営業ですよ」
「でも皆川さんの友達じゃん。電話かけてかけて」
「今から?」
「今から!」


野島の熱視線を感じながら、光恵は携帯を取り出した。


本当は、携帯から番号も削除しようと思っていた。
孝志のあの不安そうな顔。
光恵の胸が痛む。


佑司への思いは、とっくに消えている。
そのはずだ。
彼の顔を見てわき上がる感情は、すべて過去を懐かしむ甘酸っぱいもの。


今じゃない。


でも……。


光恵は少し躊躇した後、佑司の番号に発信した。


「もしもし」
彼の声。


「もしもし」
「光恵?」
「うん」
「どうしたの? システムトラブル?」


佑司はよく分かってる。光恵は思わず微笑んだ。


「そうなの。よくわかったね」
「光恵から連絡はこないって思ってたから」
「そっか」
「今、塾?」
「そう。野島さんが、もう困っちゃってて」
「そっちに二十分くらいで行けるよ」
「いいの? だって……電話でも……」
「光恵の顔を見に行くよ」


佑司の言葉に、あろうことか、どきっとする。


「待ってて。じゃあ」
ぷつっと電話が切れた。