携帯から電話がなった。
孝志は掌で携帯を包むと、しばらく振動を味わう。
ミツからでありますように。
それから、ミツからではありませんように。
えいやっと着信を見ると「佐々木さん」の文字。
ドラマでお世話になった監督の佐々木だ。
「もしもし」
孝志は間延びをしたような声で、電話にでた。
「もしもし? 孝志?」
「はい。ご無沙汰です」
「お前……大丈夫か?」
「平気ですよ。あはは」
孝志はなんだか理由もなく愉快になってきた。訳が分からない。
「今何してる?」
「えっと、ビデオ見てます」
「一人?」
「もちろんです」
「じゃあ、いまからちょっと出てこいよ」
「え〜」
孝志はベッドの上に散らばった菓子袋を見ながら「めんどくせ」と思う。
「ひどい暮らししてんだろ。わかってんだぞ」
「あはは」
「久しぶりに外に出てこい。気持ちを切り替えるいいチャンスだぞ」
「え〜」
「え〜じゃねーよ。渋谷の「しばたん」って店で待ってるからな」
佐々木は孝志の返事を待たず、一方的に電話を切った。無音の携帯を見つめ、孝志は困惑する。
行かなきゃまずいかな。
今更俺に、何の用事だろ。
孝志は自分のだらけたジャージ姿を見おろし、それからのっそりとベッドから立ち上がった。

