第4話(side story 3)


 カフェを後にすると、その足でキープしている女性の元へと遊びに行く。昼食代からホテル代まで全て出してくれる便利な女性を何人も囲っており遊興費には困らない。勇利の中ではこれらの女性を利用しているという意識はなく、お互いが合意の上での付き合いなのでギブアンドテイクだと思っている。
 ベッドに横たわり、貢いでくれる女性を腕枕しながらも心の中はモヤモヤしていた。その原因が弥であることは自身も理解しているが、学校へ確認しに行くのも癪と言う思いもある。ホテルに入る前も雨は断続的に降っており、有りもしないペンダントを未だ探しているのかもしれないと思うと自分が仕掛けた嘘とは言え気になって仕方がない。
 ベッドの時計で時間を確認すると、カフェで別れてから五時間は経っている。チラチラと何度も時計を見る勇利に女性は訝しがる。
「ユウ君? どうかした?」
「なんでもない」
「そう、じゃあもう一回しよ」
「ああ……」
 まとわりつく女性を優しく受け止めると勇利はいつもの調子で行為を開始する。しかし、脳裏にチラつく弥の笑顔が鮮明に蘇るとピタッと動きを止める。
「ん、どうしたの?」
「飽きた」
「えっ!?」
「俺、帰るわ」
「ちょ、ちょっとユウ君!」
 素早く着替えると背中に浴びせ掛かる女性の暴言を無視し、ホテルを出て学校への道を駆ける。タクシーを使えば早いことは分かっていたが、贖罪の気持ちからかどうしても雨の中を濡れながら向かうという選択しか選べない。諦めてとっくに帰っていることを願いつつも、どしゃぶりの雨の中そ傍目も気にせず学校への道を一足飛びで走っていた――――

――学校の中庭に到着すると、悪い予感が的中しており雨の中を弥は泥だらけでペンダントを探している。カフェから逆算すると六時間以上経過しており、その様子に慄然としながらも勇利は急いで弥に駆け寄る。
「先生!」
「ん? おお、傷心色男君。どうした?」
「どうしたはこっちのセリフだ! こんな雨の中何やってんだ!」
「何って、草むしり」
「一秒で分かる嘘吐くなよ! 俺が無くしたペンダント探してるんだろ!?」
「正解! 君は鋭いな~」
 笑顔で返す弥を見ると胸の奥がズキズキと痛む。
「もういいから、探さなくていいから!」
「そういう訳にはいかないわよ」
「なんで?」
「だって、大切なペンダントって言ったじゃない。ヨリを戻したいって言ったじゃない。そう言われたら私は私のできることを全力でしたい。期間限定だとしても、初めて教師になったんだから、教え子にちょっとはカッコイイところ見せたいじゃん」
 にこやかにそう言い切る弥の瞳は嘘偽り無く透き通っており、今の勇利では直視できない。視線を逸らし俯くと、弥は再びペンダント探しを始める。それと同時に勇利の中では母に言われた過去の記憶が蘇る。
 母子家庭という状況以外に幼少の頃から実母より虐待され続けていた勇利には、大人の女性は全て汚いものだという意識が強く刷り込まれていた。

『アンタなんて産むんじゃなかった! アンタが居るからろくに遊べやしない! 私はアンタの世話をするために居るんじゃない。勝手に生きて勝手に死んでいけ!』

 顔を見る度に言われたセリフは心に深く刻まれ、この世の誰も守ってくれないと子供ながらに理解した。

『アンタみたいな嘘吐きはろくな人生を歩めない』

 生きるために万引きをし、そのことにより教師や大人に疎まれ信じるられるものは自分だけと思う。非行の常習ともなれば担任の女教師からはあからさまに阻害され、これまでも尊敬できるような教師と出会えなかったと断言できる。
 そこからの勇利は徹底して女性を利用して生きることを決め、そうすることでアイデンティティを保てていた。遊ばれ騙された知った女性は一様に勇利を責め、それが女性への復讐達成の証とも取り誇らしくもある。しかし、目の前の弥は真剣な表情で雑草と格闘しており、純粋に勇利の言葉を信じ汗をかいてくれている。
 その真摯な姿を見ていると勇利の瞳には自然と涙が溢れてくる。必死になって草をかき分ける弥はそんな勇利に全く気がついていない。涙を拭き唇を噛むと、勇利は弥の背後に歩み寄り呟いた。
「先生」
「ん?」
「ごめんなさい。ペンダントのことは俺の嘘です」