第2話(side story 1)


 川苔山山道の小道で大学生の登山サークルが腰を下ろし休憩を取っている。その中に一際顔立ちの整った精悍な青年がおり、仲間と少し離れた位置より崖下を見下ろす。登山サークルを選んだ理由を問われると、空条勇利(くうじょうゆうり)は「ただなんとなく」としか答えない。
 本当の理由は数あるサークルの中で女性部員が少なくかつ、教員採用試験の面接時に訊かれて恥ずかしくないサークルでありたかった。しかし、一番の理由に挙げている女性を避けたいという点での選択が勇利にとっては大きい。大学に進学して以降彼女を作ったことのない勇利だが、決してモテないということではない。


――五年前の夏、高校二年生で遊び盛りの真っ只中、勇利はノリにノッていた。
「昨日も新米保母さんをご馳走になった」
 週末明けの教室で勇利はクラスメイトの男子に女性遍歴を自慢する。中学生以来、複数の女性を食っては捨てと繰り返してきた勇利にとって、恋愛イコールセックス程度の認識しかない。同学年の女性より働いている若い女性の方が付き合ってメリットが高いと判断した勇利の選択肢はある意味正しいと言える。

 放課後、内申書目当てで入っただけの生徒会室に顔を見せると、先輩に当たる園山真紀(そのやままき)が睨みつける。
「空条君、最近たるんでるわよ! サボり多すぎ!」
「すみません、最近身体の調子が悪くて。休みの日も病院通いなんです」
「え、そうなの? それは困ったわね。あまり無理しちゃだめよ?」
 打って変わって優しくなる真紀を見て、勇利は内心噴き出しそうになる。真紀を軽くあしらうと悠然と自分の席に着き辺りを見渡す。先輩後輩を含め女子部員はチラチラと勇利を見ており、その視線で優越感に浸る。
 チラっと真紀を見ると、携帯に着けてあるヒヨコのストラップを真剣にいじっており、キャラモノに弱いことが窺える。
「ひゃあ~、めっちゃ重かった! 私ももう年だね」
 額に汗をかき冗談を言いながら笑顔を見せるその女性を勇利は唖然としながら見つめる。ハイテンションで元気はつらつな女性は真紀と親しげに話しているが勇利は初見で誰かも分からない。後に分かったことだが、二十代後半と思われるその女性は教師であり、君島弥(きみじまあまね)と名乗った。