第11話(side story 9)


 もともと期間限定の臨時教師だったとは言え、弥は生徒に人気があり突然の解雇を皆が惜しむ。一方、解雇に追いやったとされる勇利は総スカンをくらい、クラスメイトはもとより同学年の生徒から無視され始める。
 もともと親友とされるような人物もおらず、独りであっても特に気にはならない。そんなことよりも、解雇された弥とのことが脳裏を支配しており、自分の処遇など思惑外となっている。一つ気がかりなのは、問題の写真をばら撒いた人物であり、少なからず恨みを抱く。しかし、弥からすると、
「付き合うきっかけになったから、ある意味感謝してる。犯人探しはしなくていい」
 とも言われ、振り上げた拳の下げ場所が見つからない。理解もでき大人な意見とは思うものの、釈然としないことも事実であり溜め息が頻出する。弥の意見通り、恋人同士になれたのは怪我の功名で勇利も嬉しさはあった。しかし、弥が解雇される原因ともなった画像は隠し撮りで、計画性があり意図したものだという点が引っかかる。
 勇利に恨みを持った人間でかつ校内の女子という線が濃厚だが、クラス内を見渡してみても直接関わったような人間もおらず悩む。意外なところで男子のやっかみという線もなくもないがそんなことを言っていたらキリがなく、結局推理はどん詰まりになっていた。悶々としながら独りで悩んでいると珍しく智晴が席の前に立つ。
「ん? 何か用か?」
「ちょっと外まで来てくれるか?」
 真剣な顔で言われ、これから集団リンチでもされるのかと悪い想像ばかりするが覚悟を決めて席を立つ。人気のない渡り廊下に来ると、辺りを確認した後智晴が携帯電話の画面を見せてくる。
「これ見てくれ」
 訝しがりながら覗くと、勇利と弥が待合室で並んで座っている画像が写っている。
「ああ、例の写真か。これがどうした?」
「見て気づかなかったか?」
「何に?」
「この画面の左隅をよく見てみ」
 智晴に促されもう一度よく観察する。そこには待合室のガラスがあり、そこに反射する形で携帯電話の形が写りこんでいる。
「これ、撮影者の携帯か?」
「おそらくな。で、重要なのはこの携帯に着いてるストラップだ。これ、どこかで見た覚えないか?」
 小さくぼやけており定かではないが、黄色い物体が見て取れる。それを見た瞬間、生徒会室のシーンが瞬時に蘇っていた。

 放課後、駅の改札前で見張っていると真紀が正面から歩いてくる。勇利の刺すような視線に気がついた真紀は視線を伏せ通り過ぎようとする。しかし、勇利はそれを許さない。
「待てよ、園山真紀」
 厳しい口調で呼び止められ真紀はビクッとして止まる。
「な、何よ? 先輩に向かって呼び捨て?」
「呼び捨てにするだけでも有り難いと思え。本来ならカス呼ばわりだ」
「なんで私が貴方にカス呼ばわりされなきゃいけないのよ!」
「説明が必要か?」
 そういうと勇利は智晴から貰った画像を見せ、一言だけ告げる。
「この写真の左隅にヒヨコのストラップを着けた携帯が写りこんでる」
 真紀の顔色はみるみる青ざめて行き、さっきまでの勢いは完全に無くなる。黙り込まれたことで肯定と受け取った勇利は話を切り出す。
「何でだ? 俺と先輩は生徒会以外では何の繋がりもなかったはずだ」
 問われた真紀は溜め息をついてから答える。
「藤巻奈々絵って名前に記憶ある?」
 名前を聞きカフェでの光景を思い出す。
「覚えてる。藤巻さんがどうした?」
「親戚のお姉さんなのよ、奈々絵さん。貴方に捨てられ精神的に病んで、酷い人間不信になってた。仕事も辞めて今でも心療内科に通院してるくらい重症よ。それなのに貴方はのうのうと女遊びを繰り返してる。とても許せる行動じゃない。だから姉さんに代わって復讐したのよ」
 犯行の動機を聞き、弥を解雇させる原因が自分の女性遍歴だったと知ると全身の血の気が引いていく。ショックのあまり黙り込んでいると、真紀はさらに驚くべき発言をする。
「ホントは君島先生から言うのを止められてたけど、やっぱり許せないから言ったわ。貴方は女の敵だもの」
「先生が? どういうことだ?」
「君島先生には何の罪もない。なのに結局私の撮った写真が引き金になって辞めることになった。その点は私も誤算だったし悪いと思った。だから、先生には直接謝罪したし、真相を話したのよ。先生は貴方のことを想って、このことを言わないように口止めしたかったみたいだけどね」
 真紀のセリフで弥が犯人探しをしないでいいと言った意味の深さを知る。勇利が真相を知り傷つくことを察して犯人探しを止めていた。それを悟った勇利は自分の今までやってきた行いを悔やみ、爪が掌に食い込む程強く握り締めていた。