空を見つめ、深呼吸。
相変わらずの生ぬるい空気が入り込んでは、二酸化炭素が口から出る。
でも悪い気はしなかった。
むしろその生ぬるさが今の私にはぴったり合っている気がして、力んだ手の力が緩む。
相槌を打ってくれていた陸嵩の呼吸が聞こえる。
「水泳が、蒼乃の生きる理由か」
「うん。……でも兄さんがいなくなってから、すぐ水泳に復帰できたってわけでもないんだ。また別の理由があるんだけど……」
そう言いかけて口を噤む。
兄がいなくなって水泳をしなくなった日が続いた。
それをもう一度“息を吸いたい、生きたい”と思わせたくれた理由があった。
だが、それもまた今となっては口にしたくない思いなのだ。
暫く沈黙していると、陸嵩がぶらりと力をなくして落ちている私の掌を握った。
「俺ね、蒼乃の事強いって思ってた。初めて会った時も、陸上勝負を持ちかけたときも、その後も。強いなあって、思ってた」
でも違ったな、そう言って陸嵩はもっと強く掌を握る。
「強いんじゃなくて、強くなるしかなかったんだよな。一人ぼっちで生きようとするのに弱さなんてあったら邪魔だもんな。……俺も、それは良く分かるんだ」
言葉を発しているのに、お互い顔を見ない。
端がオレンジ色に染まってきた空を眺めている。
陸嵩は大きく深呼吸をすると、さっきよりもか細い声を出した。
「俺、父さんの浮気相手の子供なんだ」
いきなりのカミングアウトに小さく心臓が浮いた。



