学園マーメイド


『ごめ、泣いてばっかだな。お前なんて泣いてないのに。……蒼乃、強くなったな』
『雪ちゃんもね』
『……ああ。あの頃の俺じゃない。変わったんだ、弱い自分じゃない』


そう、変わっていける。
今はまだ弱いかもしれない。
だけれどこれからは過去をバネに、先へ進んでいける。
お互いに顔を合わせて笑うと、ぽん、と陸嵩の顔が浮かんできた。
そして疑問に思っていたことがぽろっと零れる。


『そう言えば、なんで陸嵩と仲良くなったの?雪ちゃんバスケ部だよね』


陸上とバスケでは大分違う。
場外と場内で知り合う確立もあまりないはずだ。
雪兎は目を丸くして、そして顔を緩めた。


『ああ、バンビね。陸嵩って言うから誰かと思った』


はは、と笑う。


『初めは俺と同じ名称を貰ったやつだから、どんなんだろうって興味本位で話しかけたんだ。そしたら、案外面白い奴でさ』


頷いて相槌を打つと、雪兎はそこで言葉を詰まらせた。
どうしんだろうと、顔を覗き込むようにしてみると戸惑いに似た表情を浮かべている。


『あのさ、別に深い意味とかないんだ』
『……うん?』
『バンビの持つ雰囲気が、……その、裕利に似てたんだよ。だから……』


それは自分も感じたことのあるものだった。
彼の持つ独特の雰囲気、瞳の奥に見せる柔らかな光。
そんな彼だったからこそ自分も心を許せたのだと。
戸惑う顔を崩さない雪兎を見つめて、ふ、っと笑みが零れた。


『分かるよ、それ』
『あー、やっぱり?』
『うん。兄さんが持ってたもの、陸嵩も持ってる気がする』


同じことを思っていたようで、彼は共感するように頷いた。
兄ではないのに、兄のような雰囲気を持った彼。
“お互いに素敵な出会いをしたね”、そう言って笑い合い、私は陸嵩に会いに行くと言って部屋を出て、雪兎は寮生活ではないため、家に帰ると言った。
そしてまた今度、たくさん話そうと約束をして。