「幸せになってくれ、そしてもう自分を責めないであげて欲しい」
―――『蒼乃、幸せになって。僕の事でもう苦しまないで。自分を許してあげて、ね』
ああ、兄さん。
貴方を忘れて事なんて一度もない。
私の世界を作ってくれた人。私の全てを包み込んでくれた人。愛しくて、大好きだった人。
貴方を失った世界はまるで光のない世界に閉じ込められたみたいだった。
だけどそれを認めたくなかったの。貴方がいないなんて信じたくなかったの。
弱い子でごめんね。
でもね、もう大丈夫。もう私の世界、見つけた。
貴方がいないこの世界でどうしたら息を吸えるのか分かった。
だからね、心配しないで。私は歩いていける。
振り返らずに歩いていける。
二人の言葉が体を優しく包む。
心臓の奥が痛い。
でもこの痛みは心地いい痛みだ。
開放されたしがらみが、風と共に私の体から出て行く。
胸の奥の痛みが熱に変わっていく。ゆっくりと、それは傷が癒えるみたいに。
息を大きく吸って吐いてみる。
「兄さんは死んだ。……あたしは生きてる」
“兄さんを殺したのは私”、未だ圧し掛かる重圧。
でもそれが小さくなっていくのを感じていた。完全にあの時の気持ちが消えたわけではない。
確かに、私は兄を見殺しにしたのかもしれない。助けてやれなかったのかもしれない。
でも、兄は死んでしまった。変わる事のない事実がここにある。
その事実を、今此処で認めよう。
自分が何をしたのか、そんな事はもう考えない。
兄はこの世界には存在しないのだから。
「生きてる。これからも、生きていく」
貴方のいない世界を、私は歩いていく。



