学園マーメイド



ふと目が覚めたのは、扉がノックされる音だった。
真っ暗な部屋で、ぼんやりとしているとドア越しにくぐもった声が聞こえた。


「蒼乃、起きてる?」


陸嵩の声だ。
近くにある携帯電話の時計を見ると深夜1時を表示している。
こんな時間に…、と思いつつ今日のお礼も言いたい気持ちもあり、のそりとベッドから這い出ると静かに扉を開けた。


「具合どう?」
「…寝たお陰でちょっとすっきりしてる」
「そっか、良かった」
「あのさ」
「ん?」
「その手に持ってる物なに?」


お礼お礼、と頭で唱えていた私は扉を開けてすぐ見えた“その物”に気を取られ、お礼を言う前にそっちに突っ込んでしまった。


「何って、枕」


そう、枕なのだ。
陸嵩の右脇に抱えられているのは寝るときに使用する枕。
だがここに持ってくる必要はないはずだ。


「そうだね、枕だ。…なんで?」
「悪夢とか見るのは寂しいからなんだって。だから俺が添い寝でもしてや」
「いらない」


陸嵩が言い終わる前に遮る。


「相部屋の人に見つかったらどうすんの?寮長にもばれて学校に報告されたら、即停学か退学。…そう思ってくれた今日の事は感謝してるけど、そう言う事態に巻き込むのはやめて欲しい」


真剣に熱弁(とまではいかないが)したつもりだったが、陸嵩はぷ、っと噴出してとりあえず中に入れて欲しいと言った。
一度躊躇したが、ここで話していたら誰かが声に気付いて出てくる可能性もある。
渋々ながら陸嵩を部屋に入れた。