「蒼乃!」
「………あ」
反射的に瞳が開く。
ごくり、と唾が喉を通る。
つー、と額から汗が伝う。
視界に眉を寄せた陸嵩の表情が映る。
とんとん拍子に起こる事に混乱しながらも彼の表情だけはっきりと見えた。
「大丈夫か?」
「…何が」
冷たい声が出る。
「何がって、凄くうなされてたから…」
「…平気」
「平気ってなあ」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
お願いだから傍によらないで。
私に向けられた陸嵩の瞳は居心地が悪い。
「大丈夫、大丈夫だから。……お願い、独りにして」
酷い対応だと思う。
助けて部屋まで送ってくれた恩人に、ありがとうの言葉一つもでないなんて。
陸嵩は一瞬困ったような、詰まったような顔を作ると、頷いて立ち上がった。
小さく扉の閉じる音がして、私は大きく息を吐いた。
額から伝った汗を拭うと、手にべっとりとした汗。
「……………」
夢に中に出てきた兄の姿が瞼の裏で新鮮に動く。
そして、もう一人の子。
そうだ、いつもこの3人で遊んでいたはずだ。
ただそれだけのこと、昔の事を思い出しただけでこんな有様か。
…変わらない弱い自分がいる。
それが酷く悲しく、苦しい現実に思えて私は再び目を瞑り、無空間の渦に飲まれていった。
あの夢の続きを見ませんようにと願いながら。



