「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
そう言うと、安心したのか顔色が変わる。
そんなに酷い顔をしていたのだろうか、と思いながら無心で口を開く。
「兄弟は兄が一人」
「兄ちゃんかあ。俺、異性の兄弟いないからさ、どんな感じ?」
うるさい。
「ん、別に普通だよ。仲が良かった方だと思う」
うるさい。
「そっかあ。俺も姉ちゃん欲しかったかも」
「…そだね」
うるさいよ。
鳴り止め心臓の音。
「…ごめん、トイレ行ってくんね」
そう告げて椅子を立ち、テラスからそう遠くないトイレに足を向かわせた。
トイレに着いて、汚いと分かっていながらもずるずると床に腰を下ろした。
どんな顔をしていた?
ちゃんと笑顔は作れていた?
…、吐き気がする。
その話題に触れただけでみっともないくらい乱れる心音にも、周りが見えなくなるくらい考えてしまう自分の脳にも。
そして口から出てくる自分の言葉にも。
全てに嫌悪感を覚え、その場から今すぐに逃げ出したい気持ちにさせる。
「………気持ち悪い」
そう、気持ち悪い。
手の平で口元を押さえてみるが気持ち悪さは変わらない。



