基本的、自分から話題をふれない私にとって陸嵩の口から出てくる言葉には助かった。
こっちが何もしないでも彼は話を進めてくれている。
心の中で感謝をしつつ、会話を続けた。
「俺は3人兄弟で、そんで俺が真ん中」
「三人とも男の子?」
「そ。兄貴が野球、俺が陸上、弟がサッカー。それぞれ違うスポーツ好きなんだ」
「ほぉ、凄いね。スポーツの血筋だ」
兄や弟も彼のようにずば抜けた才能を持っているのだろうか。
だとしたら凄い。
感心して聞いていると陸嵩の顔が此方を覗いた。
「蒼乃は?兄弟いる?」
小さく心臓が跳ねる。
それを引き金として次第に体中が固まり、脈を打つのが早くなる。
何を動揺しているのだ。
家族の話をすればいい、小さい頃から今まで暮らしてきた家族の事を。
家族の事、…一緒の家で暮らしてきた人の事を。
“家族”、だったんだろうか。
いま、あの人たちは何をしているんだろう。
自分がいなくなったあの家で、彼らは何を思い、感じて過ごしているんだろうか。
考えても無駄なことだ。
自分がいなくなっても何も変わりはしない。
いつも通りの時間が流れ、いつも通りの生活をしている。
ただそこに“私”と言う存在がなくなっただけ。
肌色の物体がひらひらと宙を舞っているのが視界に入りはっとした。
考え込みすぎて周りが見えていなかったようだ。
「蒼乃?」
ちゃんとした“現実”を見れば陸嵩が心配そうな顔をして手を振っている。
肌色の物体は彼の手だ。



