「陸嵩」
口を開いて気づいた。
声がガラガラするほど、こんなにも喉が渇いている。
陸嵩は私に名前を呼ばれ、一瞬だけ肩を揺らした。
「……一緒に創立際回ってくれるんじゃなかったの?」
「…………」
彼の隣につき、フェンスを握る。
ひんやりとした感触が全身を冷ます。
顔を膝に埋めているので、陸嵩の顔は見えない。
「陸嵩」
もう一度優しく名前を呼ぶと、彼は少し顔を上げた。
「……置いていくの蒼乃じゃん」
ぽつり、と小さな声だったがそれは確かに耳に届いた。
そしてその言葉は私の心臓を掴んで思い切り潰す。
痛い、痛くて重い。
そう、私は彼を置いて行く。
「うん、あたしの夢の為に陸嵩と離れる」
なんて軽い言葉なんだろう。
決断だって本能のまま、成すがまま。
私がしたいからと言ってアメリカに行くことを決めたんだ。
だけど残された人の事を考えてなかったのは事実。
変わらない事実。
私は彼を此処に置いて行く。
「…………ごめん」
少しの沈黙の後、更にか細い声が隣から聞こえた。
微かな震えと共に。



