学園マーメイド




真っ青に広がっていた空が、だんだんとオレンジ色に変わっていこうとしている。
温かみを増す色だ。
……それを見て、はっとする。
この色、前にどこかで見たことがある。



「でも、どこで」



呟いて頭をフル回転させる。




――――『だからね!…………分かるから、他の人よりも蒼乃の今の気持ち分かるから』




ああ、あの時だ。




――――『くさい台詞なんだろうけど…………、泣いていいんだよ』




雪兎と和解した時、兄とのしがらみが解けたとき、泣けずにいた私を抱きしめてくれたとき。
これと同じ色が背景にあった。
暖かい色で包まれていた。
私は窓の外に目を向けながら、ゆっくりと歩き出した。
きっとあそこにいる。
おかしなことに何の証拠もなのに、私は彼がそこにいるのだと確信した。
だぶん、俗で言う女の勘だ。
さきほどと打って変わって慌てず、焦らず、歩調は穏やかだった。





全ての階段を上りきり、目の前に広がる一枚のドアに手をかける。
ノブを回すと錆びきった扉は悲鳴を上げた。
がちゃん、少し荒い音を立てて扉が完全に開く。
迎えてくれたのは温かい色。オレンジ色の空。


真冬にも関わらず、何故か今日は気温が高いのだと開会の時だれかが言っていた。
確かに暖かい。
たどり着いた屋上は静かだった。
そして開けた私の視界に移ったのは、小さい背中。
三角座りをしている陸嵩の姿が目にはいる(ふさふさの茶色い髪の毛で分かる)。
私に向けられたその背は、小さく縮こまっている。
フェンスギリギリで座っている彼は微動だにしなかった。
(やはり真冬だ)冷たい空気が鼻から入って腹に落ちる。
熱を冷ましていく。
扉から手を離し、彼の背中に近付いていく間、心臓が順々に脈が高鳴っていくのを感じる。