当主はゆっくりと上を指差した。
追うようにして見ると、年老いた人たちの写真の中に若く綺麗な人が一番端に混ざっている。
どどどどど、と心臓がリズムを刻んだ。
この人が、私の母親――――。
「お前を見ると、藤乃を奪った男の顔と亡くなった藤乃の顔を同時に思い出してしまう。……それが何より辛かった。お前の顔など見たくなかった」
左胸に脈を打つ心臓が全身を包む。
「あの男も、あの男についていった藤乃も……、そしてその二人から生まれたお前がたまらなく憎いのだよ」
酷い事を言われているのに、不思議と心は痛まなかった。
ただあの写真で笑っている人に目線は釘付けだった。
「挙句に……、命まで落とすとは」
しわがれた声が悲しそうな音色を出した。
そっと視線を落とし、当主を見る。
脳裏に焼き付けられた母親の顔。あの人が私を生んだ人。
自分のことなのに、どこか違う人の事のように思えて仕方なかった。
でも、この微かに震える手は確かに自分のことなのだと教えてくれている。
「……今日のお前は、藤乃によく似ている」
当主は懐かしむような色の瞳を見せた。
ああ、だからか。義母が私の姿を見てとても驚いたようにしたのも、ここに集った人間が同じような態度をとったのも。
私がこの人の娘に似ているからなのだ。
だけど、今更亡くなった両親のことを言われてどうしろと言うんだろう。
私はやっと私の世界から脱出して、愛すべき人たちと生きている。
出来れば壊されたくない。
今の場所を奪われるのならば、両親のことなんて知らないままでいい。
尾神なんて名前も、母親も知らなくていい。
手に入れたものはそれほどにまで大きいのだから。



