「あ、あのね……、実は今日ね」



この人は私の瞳を滅多に見ない。
今も下を向いたまま瞳を左右に揺らすだけだ。
……それが小さい頃から拒絶なんだと思って生きてきた。
今更どうってことない(そう、どうってことないはず)。



「今日は……、あの……」



濁すような言い方だ。
そんなに不都合なことがあるのだろうか。
思い切って口を開く。



「今日は、なんですか」
「っ!その、あの……、実は今日ね、私の父……、蒼乃ちゃんのおじい様にあたる人のお家に招かれてるの」



私の問いに少し驚いたようだったが、それが引き金となって口が滑らかに動いたようだ。



「……そうですか。じゃあ、気をつけて行って来て下さい」



いつもの報告だけなのだと思ったのだが、違ったようだ。
義母が慌てて付け足すようにして口を開いた。



「こ、今回は蒼乃さん、貴女も招かれているの」



どくん、と心臓が音を立てた。
存在は知っていた。毎年、年末になると義母と義父は決まって私の祖父にあたる人の家に行っていたからだ。
だけど、私はいつでも一人ぼっちでこの広い家に置き去りにされていた。
義父曰く“あの方がお前の存在を認めるわけがない”のだそうだ。
だから一生その祖父とやらには会えないと思っていたし、会えなくても支障はないと今でも思っている。
なのに、今更?
私は招かざる人間ではなかったのか。