学園マーメイド



誰とも付き合ったことのない私にとって、いろんな初めてを陸嵩からもらっている。



「熱いねえ……。蒼乃、まじでコイツでいいのか?考え直しても誰も文句言わねえぞ」
「ちょ!やめてくださいよ」
「両想いになった次の日なんて、3時間ぐらい蒼乃について語られてさ。デレッデレしやがって」
「ああああ!ラビ先輩やめてくださいってば!」
「バ、バンビ君、ラビ先輩……っ!み、みんな見てますよ」



ぎゃあぎゃあ、と煩い声がプール内に木霊して。
でもそんな雑音にも似た声がとても愛しく、そして安心する。
いつものように陸嵩をからかう雪兎、それをなだめる梅沢。
じん、と胸底が熱くなって、自分がこんなにもこの場所が好きだったことを再度実感する。
離れてみて分かる、人の温かさ。
私はまた少し、人について学んだようだ。



「……陸嵩がいいよ。他の人はいやだ」



恥らう事無くそう言うと、三人の声がぴたりと止む。
雪兎は甲高い口笛を吹いて私を見る。



「蒼乃、お前って直球だったんだな」
「直球?」



聞き返すと雪兎は私の頭をぐしゃぐしゃに撫で、優しい笑顔を見せた。
細められた瞳が良かったな、と言っている。
後でたくさんのありがとうを伝えよう。陸嵩との関係を伝えた日もたくさん言ったのだが、言い足りない。
この“好きだ”という感情は彼が気づかせてくれたものだ。
彼がいなければ、陸嵩を好きだと言うことに気づけなかったのだ。
心からのありがとうを伝えよう。



「俺も蒼乃がいい。蒼乃じゃなきゃいやだ」



そう言って顔を赤らめた陸嵩はぎゅっと私の体を抱きしめた。
そしてその後すぐ、雪兎の“ときめきメモリあってんじゃねえよ”と言う呆れた声と、梅沢の真っ赤になった顔が飛び込んできた。