学園マーメイド




水の中を泳ぎ、壁にタッチして顔をあげると川上が待っている。
それに少し慣れた自分が気持ち悪い。



「フォームの改善を意識してるのは分かる。でも、意識しすぎで下半身の動きが適当になってるの自分でも分かっただろ?」



飛び込み台に掴まりながら、真剣に説明してくれる川上の言葉に耳を傾ける。
確かに足の蹴り具合がおかしかったかもしれない。
いつもよりも重みを感じなかった。
同意するように頷いてみせると、川上も話を続けた。



「どっちかに意識を偏らせるんじゃなくて―――……」



川上の説明は分かりやすく、今まで延びなかった平泳ぎのタイムが少しずつ上がってきている。
自分だけの力じゃここまでタイムは伸びなかっただろう。
大会まであと2週間に迫ってきているが、こんなにも充実感のある練習をしたのは初めてのような気がした。



「っと、こんな時間だ。今日はこれでいいよ。ダウンしたらあがって」



腕につけた時計を見て、顔を緩ませる。
真剣なときの顔とは正反対だ。
一瞥してダウンしようと水に潜ろうとした時、川上の声が上から降ってきた。



「蒼乃ちゃんって寮生活だよな」
「……今は友人の家に泊まらせてもらっています」
「あ、そうなんだ。どうして?寮が嫌になった?」
「別にそうじゃありません」



貴方に言う筋合いはありません、と言いたいのを飲む。



「そっか。じゃあ俺、その友達の家まで送ってくよ。ここからどれくらい」



その言葉にぎょっと目を見開く。
そんな面倒くさくなることやめて欲しい。