しかもそう怒鳴っている声には棘があり、光が責められているのだと分かる。
何が理由なのかも分からない。
だけど、どうしてもこのドアノブを握って戸を開けたくなる衝動に駆られた。
もし彼女が嫌がらせにあっているなら、助けてあげたい。
自分になんの力があるかもわからないのに。
それでも何か力になれるならば……、と思った自分に吃驚した。
心臓がどくん、どくんと脈を打ち、何度も何度も心音を響かせる。
「…………」
前まで感じたことのないもの。
誰かのために、何かをしてあげたいという代償無しの思い。
「なんだこれ」
一瞬頭がおかしくなったのではないかと思って、自分を嘲笑ってみる。
だけど次にはそれがおかしくない事に気付く。
――――“感情”だ。
心の奥にしまっていた、あの感情が陸嵩を通じ、雪兎、梅沢と接触して浮上してきたもの。
ああ、変わったんだ私の心。
嫌な感じはしない、むしろ暖かくて懐かしい。
どこかで求めていたものだったのかもしれない。心地よく、包み込んでくれるもの。
どくりと音を立てている心臓に手を当ててみる。
やはりどくり、と音を立てた。
「いい加減にしてよね、これ以上バンビ君に嫌われるの嫌だから!」
そしてその心音が心地よすぎて、バスケ部の扉が開いたことに気付かなかったらしい。
バスケ部員が部室から出てきたのだ。
その部員と目があって、心地よい心音はまたたく間に切羽詰った速い音に変わっていった。
バスケ部員は私を見ると、最悪と困惑が混ざった表情を見せた。
ぐるり、と後ろを振り返り、部室にいる仲間達を見る。
助けを求めているのだろうか。
助けて欲しいのはこっちのような気もするが。
ここで逃げるのもなんだか違う気がする。
「……こんにちは」
どうしようか迷っていた私の口から出たのは素っ頓狂な言葉だった。
第一こういう時に何を言ったらいいのか分からない。
黙っていようと思ったが、パニックになってしまっているらしい(表情にはでてないが)。



