学園マーメイド



「こいつは相部屋で同じ陸上部所属の、梅沢一輝(うめざわかずき)」


まだ数人ほどいるカフェテラスに3人(空気も面子も不自然だ)。
紹介されて梅沢一輝はぺこりと頭をさげた。
私もぺこりと頭を下げる。


「みんなは梅って呼んでるよ。あ、あと陸上競技は幅跳び」
「へえ、そうなんだ」
「あ、うん。い、一応」


ここの学園に来ていると言う事は実績はあるのだろう。
もう少し自信を持てばいいのに。自分の誇れる競技なら尚更。
まじまじと彼の顔を見ると彼は照れくさそうに、そして助けを求めるように陸嵩をみた。
その視線に気付いた彼は私に真剣な眼差しを送ってきた。


「で、だ。本当に落ちたんだ?」
「……うん」
「梅もそれをすれ違った女の子から聞いた、と」
「う、うん。“可哀想だね、ちょっと痛そうだったね”とか言ってたんだ」
「……ふうん」


少し疑うような視線に心臓がどきりと鳴る。
もしここで実は落ちたんじゃなくて、落とされたんだ、なんて言ったら彼はどうするだろうか。
そう考えて小さく身震いした。
面倒ごとは好きじゃない。ここでその発言をしたら面倒になるのは目に見えて分かる。
陸嵩の視線に逃げるようにして梅沢一輝の方を見ると彼も、陸嵩の出す空気に怯えているようだった。
……小動物のように見える(失礼だ)。


「と、とりあえずバンビ君には伝えておかないとと思って……」


その発言に首をかしげる。


「……なんで陸嵩には言わなきゃいけないの?」


私の声にびくり、と肩を震わせたのは梅沢一輝ではなく陸嵩だった。