学園マーメイド



「軽い捻挫、だって」
「捻挫……、てなんで?水泳で?」
「違う違う。あー、階段で転んだんだ」


苦笑いで返すが、陸嵩の表情は変わらない。むしろもっと悪化していると言ってもいい。
眉間に皺を寄せたまま、じっと私の足元を見つめている。
……沈黙がとても痛い。
そんな時、廊下の奥から走ってくる足音が聞こえてきた。荒々しいとても急いでいるような足音。
だが二人して視線はそっちに向けない。いや向けられない(沈黙が痛くて)。
足音は段々と近づいてきて、私達の近くで止まった。


「……っバンビ君!大変……なんだよっ、園田さんが階段から落ちたって………っ」


荒い息を吐いて陸嵩に必死な目で訴える男の子。
黒髪に目元までかかる前髪。その前髪の所為で瞳はよく見えない。
しかも彼の話している内容それが私についてだ。ここに私がいると言うのを気付いていないらしい。


「梅」
「はぁ、……さっき通りすがった女子達がそんな話を……、して……!」


陸嵩を見て、視線をちらりと此方に向けた彼と目が合う。
そしてやっと私、園田蒼乃がいると認識したのだろう。彼は驚きと共に顔を真っ赤に染めた。
陸嵩はやっと私から視線をずらし、男の子のほうへと目をやる。


「俺も今、蒼乃に会って知ったよ」
「そ、そうみたいだね」


恥ずかしそうに床に視線を落とす。
だが不穏な空気は収まらず、事情聴取をしたいと言う陸嵩の言葉によりカフェテラスに移動することになった。