残暑が残りつつある学園。
次々にエスカレートしていく嫌がらせ(虐めの領域だ)。
ノートにカッターの刃、靴が隠されている、靴に画鋲。
下駄箱に生ゴミが詰まっていたのにはさすがに堪えた。
そして、今度はこれだ。
「…………」
偶然だと思いたいがそうもいかない。
階段から押されて落ちたのだ。しかもわざとぶつかった感じではなく、明らかに手で背中を押されたようだ。
まあ、そうはいっても幸い残り一段のところだったのでそんなに酷い怪我はしていない。部活が終わってからだったのも幸いだ。
……少し右足首がじんじんと痛むのだが、気のせいにしておこう。
ひんやりとした物が足に貼り付けられる……、湿布だ。
「軽い捻挫ね。まだ大会まで期間有るから良かったけど、気をつけなさい。大事な体なんだからね」
保健室に行って保険医に診てもらった結果がこれだ。
軽い捻挫……、いいや気のせいだ。
コーチにこんな事を言ったら絶対、練習に出させてもらえない。
息が吸えない、生きている意味がなくなる。
だめだ、そんなのは絶対だめだ。
「せ、先生。このこと、コーチには黙っておいて下さい」
「……園田さん、まさか練習するつもり?」
保険医の質問に黙る。
黙る、というそのものがその質問を肯定していることになる。
「あのね、少しぐらい大事を取って休みなさい。確かに毎日の積み重ねが大事だけど一日ぐらい休養って必要なのよ」
「それじゃあ意味がないんです。……お願いします、コーチには黙っててください。自分で調整するので」
保険医の瞳を見つめ、頭を下げる。
こんな些細な怪我で水の中に入れないなんてことはあってはならない。
私が生きられない。



