----------------------
陸嵩は蒼乃が寝たのを確認すると、ゆっくりとベッドから出た。
起こさないように音を立てないように、忍び足で部屋を出ると談話室へと向かった。
談話室に入り、椅子に座って息を吐くと携帯を取り出し電話をかけた。
「……あ、今晩は。起きてました?」
『ん、課題やってた。どうした?』
電話越しの相手は雪兎だった。
雪兎の問いに陸嵩は沈黙した。
『……ま、お前が電話してくるなんてあれだろ。蒼乃、だろ』
お見通しのようだ、陸嵩はふ、と困った笑いを浮かべた。
「さすがラビ先輩」
『まあね。そんで?』
「……最近、蒼乃怪我が増えたんですよ。そうでなくてもなんか疲れているって言うか、理由聞いても曖昧のまま返すし」
その行為が陸嵩に壁を感じさせていた。
兄の事を聞いて、蒼乃が背負っているものを知って、少しは近づいたと思った。
だがまた彼女はどこかで境界線を立てて、陸嵩を入れないようにとする。
それが寂しく感じていたのだ。
『ああ。俺も、それはなんとなく思った』
「先輩にも話してないんですか?」
『俺だって完璧あいつの信頼度を得てるわけじゃねえよ。……溜め込むのがたぶん癖なんだろうな』
「そんなの嫌なんですけど。何でも頼って欲しいです」
支えたいと、思った。
だから支えようと彼女の傍にいた。
だが前より距離が縮まったと思うものの、まだまだ蒼乃との距離は長い気がしてしょうがなかった。
電話越しから雪兎の溜息が聞こえた。
『俺だってそうだ』
「……不安なんです。好きだって言うと蒼乃はその、困ったような顔になるじゃないですか。俺の事本当は嫌いなんじゃないかって。でも、傍にいるのを許してくれてるし、分かんないんです」
『ああ、それか』
罰悪そうな声が聞こえて、陸嵩はぎゅっと携帯電話を握り締めた。
手に汗を掻きながら、どういう意味すか、と尋ねる。
『あのな、深い意味ないんだ』
「…………」



