学園マーメイド


応援って言うのは誰に対しても喜びを与えてくれるのもなんだな、と呑気に考えていた。
陸嵩はにこにこと絶えず嬉しそうな笑みを浮かべている。
何がそんなに楽しいのかは検討がつかないし、詮索するのも面倒だ。
時計をみると12時を指している。
そろそろ寝ようと思い枕に頭を押し付けると、陸嵩が思いついたように口を開いた。


「あ、そう言えば朝怪我したの、ちゃんと手当てした?」


寝ようとしてゆっくりと打っていた心音が少しスピードをあげた。


「あー、うん。ちゃんとバンソウコウ張ったよ」
「紙って結構切れやすいから気をつけてよ。めっちゃ血出てたじゃん」


切った手を見せてと言う様に、手を差し出されてその上に切った右手を乗せた。
まさか言えるはずがない。
ノートの中に剃刀の刃が入っていたなんて、……言える筈がないのだ。
夏休み初めに始まった“嫌がらせ”と言うのは今も健在。
下駄箱には飲み物のゴミが入っていたり、脅迫のような紙が丸まって入っていたり。
内容はまあ、陸嵩や雪兎に関する事だったり。
だからこそ彼らに言えるわけがないのだ。


「ちょっとこれ血滲んでない?」


心配そうに私の指を撫でる陸嵩。
それに大丈夫だと笑って見せ、彼の手から自分の右手を離す。
剃刀の刃の切れ味は抜群。
すっぱり切れてしまった。


「こんなの1週間もあれば治るよ。陸嵩は大げさなだけ」
「……心配するよ」
「うん、ありがとう。おやすみ」


眉毛を垂れさせ、本当に心配そうな顔をして此方をみるから罰が悪くなる。
陸嵩に背を向けて早々と告げると、瞳を閉じた。
不自然に思われて当然だろう。素っ気無いと思われても当然だろう。
だけど、これは私の問題であって彼らの問題でない。
巻き込むわけにはいかないのだ。
そんな事を考えているうちに睡魔は私の脳内を占領し、眠りへと導いた。