「くさい台詞なんだろうけど…………、泣いていいんだよ」
すー、と流れる風のように浸透する陸嵩の言葉。
例えば、他の誰かに言われた言葉だったならこんなにも簡単に胸の奥に響かない。
“泣いていいんだよ”、短くてどこでもありふれている言葉。
なのに、こんなにも胸の奥の痛い所を包んでくれるのは、陸嵩だから。
貴方だからこんなにも心が震えるんだ。
「……――――っ」
我慢していたわけじゃない(と思う)。
強がっていたわけじゃない(と思う)。
ゆっくりと零れ落ちた涙は暖かく、頬を伝った。
「…あ……っ、……うぅ……く」
苦しくて苦しくて、喉元からでた声は詰まり切っていて。
どれくらいぶりに涙を流したのだろうか、きっと錆び付いている涙なんだろう。
顔が歪みきっていて、不細工。
陸嵩の顔さえも見えないくらい視界は歪んでオレンジ色に染まる空さえ、歪んで。
「兄さ…っ、……っぁ…、兄さんっ!」
分かってる、分かってるんだ。
兄はこの世から去った。私の世界から姿を消した。
分かってる、分かっているから。
「……っ蒼乃!」
ぐっと体を引き寄せられ、体に体温を感じる。
陸嵩の熱が体中に広がる。
どうしてこんなにも彼の体温を心地よく感じるのだろう。
どうしてこんなにも彼の体は私をいとも簡単に抱きしめてしまうのだろう。
「……もう、独りじゃないから。俺もラビ先輩もいるから。だから……っ」
最後の言葉は聞こえなかった。
陸嵩の涙が落ちて首筋を伝う。
連鎖するように私の涙も頬を伝ってコンクリートに落ちる。
ああ、もう大丈夫。
もう暫く泣いたら、きっと歩き出せる。隣に彼を連れて、歩き出せる。
だから、今はもう少しだけこうさせて欲しい。
ねえ、兄さん許してね。
その日は赤子のようにわんわんと大声を出して彼の腕の中で泣き続けた。



