晴れ、時々、運命のいたずら




「これは…。」



2枚の書類にはそれぞれ一昨年のちびっこのど自慢大会、昨年のちびっこのど自慢大会で優勝した有紗の写真と歌った曲名、服装などの詳細が細かく書かれてある。



「社長は毎年、ここで開催されるのど自慢大会を東京から見に来ているのですよ。」



島根が補足するように伝える。



「どうして、この大会に…。」



「社長は、香川出身なのですよ。」



「えっ?」



「実は、私は丸亀なので。」



香川県丸亀市。


まんのう町に隣接する都市だ。



「私はこの大会が出来た時から毎年香川に戻って来ては見ておりました。
2年前…、有紗ちゃんが初めて優勝した時…。
私の中で込み上げる思いが有りました。
そして、今年。
有紗ちゃんが6年生になり最後の出場となる今年に是非お願いしようと思っておりました。」



千夏が昨年のちびっこのど自慢大会の書類を手に取る。



「そうだったのですか…。」



「お母さん。」



黙って大人達のやり取りを聞いていた有紗が声を掛けてきた。



「有紗、アイドルになりたい!」



「有紗…。」



「私、アイドルになって、ステージの上に立ちたい!」



力強く伝えてくる有紗に直美は初めて微笑みを浮かべた。



「とにかく…、考えさせて下さい。」



「3年後…、有紗ちゃんが中学卒業する時期にまたお伺いします。」



直美と島根は揃って立ち上がると、千夏に向かって頭を下げ、広げた書類を手際よく片付け去って行った。