香織の顔が青ざめる。
「あんた、まさか見たの?」
「…ごめんなさい。」
涙を流しながら素直に謝る愛姫を見て、香織は立ち上がってフッと1つ息を吐いた。
「香織は所詮才能がなかったのよ。田舎者が歌が上手くて人気があった事を嫉妬してただけだった。」
「違う。
香織はデビュー当初からずっと必死に走り続けてくれた。
どこに行ってもニコニコと。
人との繋がりをしっかり作って。
そのお陰でShipが売れ始めて仕事が貰えるようになった。
それは全て香織のお陰。
間違いない。
私なんて、ただ何も出来ずに香織や島根さんの後ろをついているだけ。
香織の言う通り、ただの田舎者。
それなのに…。」
「もう、泣くなよ。これからは1人で頑張るんだろ?立てよ。」
ヨロヨロと立ち上がる愛姫に近寄り携帯を受け取る。
「悪かったな。今までバカにしてばかりで。これからも頑張れよ。」
「香織は…、どうするの?」
「神奈川に帰るよ。」
「辞める、の?」
「3曲目をしっかり歌ってそれで終わりにする。もう満足。この世界の嫌な部分も色々見て来たし。」
「ごめんね。」
「あんたが謝る事じゃない。それに本当は辞める事、少し前から考えてたんだ。」
「香織は任せておいて。」
先程まで香織と一緒に座っていた男性が立ち上がって振り向いた。

