(私に話しかけてきているの?)
「君は…、富山愛姫が好きなのかい?」
穂乃花の後ろの席。
その席にはイベントが始まる前から気になっていた黄色いパーカーの男性が座っている。
(どうしよう…。)
愛姫の歌声を聞いた感動から、見知らぬ男性から声を掛けられた恐怖へと心の中が変化していく。
(怖い…。)
席が埋まっていない為、助けを求めたくても近くに誰もいない。
穂乃花は涙を拭き、オドオドと恐怖から来る震えを必死に抑えていると、背後から少し椅子を動かす音が聞こえた。
その黄色いパーカーの男性が立ち上がったのだ。
そのままその男性は席を離れ、歩いて去っていく。
(良かった…。)
何もされなかった事への安心感で体全体の力が抜ける。
(でも、あの人…、何だったのだろう。)
少し気になり、黄色のパーカーの男性の後姿を目で追う。
そして、その男性が見えなくなるまで追っていると、次にその傍に立っている男性が目に入った。
少し離れた場所から優しい目でステージを眺めている。
(あの人、どこかで見た事ある…。)

