「やばっ、見つかった!?」
 大袈裟に上体をのけ反らせて、俺はさも意外そうに驚いてみせた。
 ……開幕直後、いきなりの大嘘だった。
 我ながら白々しいにも程がある。
 まだ会ったなりである糞天使──いや、“羽野郎”ならともかく、長く親しくしてきた由加にはこれが演技だとバレバレなことだろう。
 それでも構わない。
 彼女の疑心をかき立てられるなら、むしろ好都合。
 俺と赤髪の少女が潜伏していた建物の陰から少し移動した、少し広めの──しかし相変わらず薄暗い例の裏路地の一角。
 そこで俺と赤髪は、羽野郎と由加の二人と鉢合わせしていた。
「大樹……? せっかく一度は逃げられたのに、また戻ってくるなんて何考えてるの?」
「っかしーなあ。こっちに来れば由加達に遭わずに済んだと思ったのに、アテが外れちまったか」
 やはりオーバーアクション気味に、俺は“やれやれ”と肩を竦めてみせる。
 これも段取り通りであり、大嘘だった。
 初手はこんなものだろう。
 以後は余裕の姿勢を維持し、連中にプレッシャーをかけていく事にする俺。
「何を企んでいるかは知らぬが、そちらから出向いてくれたなら好都合。あの鬱陶しい皇樹とやらはすぐに消滅してしまった事だし、今度こそこの場でお前を“再生”すると共に、失敗作には灸を据えてやれるというものよ」
「残念、そいつは止めといた方が良いと思うぜ」
「……なに?」
 俺の自信たっぷりな反論に、羽野郎の右頬がぴくりと引き攣つるが、奴はすぐに気を取り直したようだった。
 由加の方も既に落ち着きを取り戻しており、こちらの出方を慎重に見定めようと、俺を睨みつけている。
 皇樹の事もバレバレだった。
 一緒に映画を見た由加が向こうに居るんだ、バレてないはずが無い。
 しかし、羽野郎は食いついた。
 その心理的余裕故に。
 警戒させつつ、挑発。
 俺のペースである。
「そっちは何だかんだ言っても、由加は戦力外だろ? こっちは俺と赤髪が組んでるんだ。二対一じゃ、あんたに勝ち目は無えって事さ」
「つまり、お前は戦えるとでも? 答えよ、愚者」
「ったりめーよ。これでも喧嘩は負け知らずなんだぜ?」