朝礼が終わると先生が教室を出る。横目でチラリと彼女を見ると、微笑みを浮かべ椅子に座ったまま私に近寄って来た。

「ねぇ、沢成さんの下の名前は何?」

「わ、私…の? えっと…陽(ひかる)。太陽の陽で、ひかる、って言うの」

そう答えると彼女は私の両手を手で包み込んでくる。体温が低いのか、彼女の指先が冷たく感じた。

「とても素敵な名前ね。陽って呼んでもいい? 私貴女と友達になりたい」

その言葉は私にとってずっと縁のないものだと思っていた。私なんかと友達になりたいなんて思ってくれる人、どこにも居ないってずっとそう思っていた……。

「私と? 友達に……」

「そうよ。陽と友達になりたいの」

包み込んだままの手、彼女は優しく私の手の甲を親指で撫でながら微笑みを浮かべて私の答えを待っている。嬉しくて、同時に少し恐くて、涙目になって来るのが自分でもわかった。

「私でいいなら、友達になろう?」

「ありがとう、陽」

彼女はまた少し私に近付いて指で目尻に浮かんだ涙をすくい上げてくれた。細くて白い指、冷たいのにとても暖かい気持ちになる。心が落ち着く……。

「これからはずっと一緒よ、陽」

「うん。よろしくね……唯」

私達はお互い見つめ合い、暑さも忘れて手を握り合っていた。彼女の手はとても柔らかくて白魚のようで、いつまでも握り続けていたい、そう思わせる魔法の手の持ち主だと思った。

「私、貴女を見た時友達になりたいって思ったの。一番最初に友達になりたかった。だから、すごく嬉しい」

ストレートで飾りのない言葉、私の胸にストン、ストンと心地良く落ちて来る。唯の声色が私の耳に癒しをくれた。

「私もよ唯。貴女を見た時目を奪われた。貴女はすごく素敵で可愛い。私、貴女みたいな人に友達になってもらえて、すごく幸せよ」

「陽…。私も幸せよ、陽」

白い頬を少し紅潮させて彼女は微笑みを浮かべて私を見つめる。
今こうしている時間が、とても好き。初めて会うはずなのにずっと前から知り合いだったような気さえしてくる。
ずっと昔から、友達だったみたい……。

「陽……私は、貴女の友達よ」

「唯……私も、貴女の友達だよ」

周りのことなんて気にもしなかった。私の目には、彼女しか映っていなかった。