20××年 7月3日
水色の絵の具を塗りたくったような高い夏の空、暑い日差しが窓から差し込み額に汗を滲ませる。まだ1限目も始まっていないのに、すでに憂鬱になる……。
出来ることなら今すぐ家に帰って、冷房の効いた涼しい部屋で寝ていたい、そんなことを思いながらボーッとしていた。風ひとつない外からは、何十匹もの蝉の大合唱が休むことなく繰り広げられている。自然と口から零れ落ちるため息、私は机の上で腕を交差させて置くとそこに頭を乗せて机に伏せる。体が暑さに負けて、とても怠く感じた……。

あと2週間で夏休みが始まる。
夏休みを待ち望む人が多く居る中、私は素直に喜べずにいた。
両親は私が夏休みだとしてもきっと仕事で忙しいから家に居ない。たった一人で過ごす時間が多いせいか、学年が変わってからというもの私には親しい友達があまり出来なかった。
それよりも私は、誰かと居ることに息苦しささえ感じてしまうほど人に拒否反応を起こしているようだった……。
学校ではいつも一人、家に帰ってからも一人でご飯を食べて一人で過ごして、朝起きても一人……。親と顔を合わせることなんてほとんどなく、休みだとしてもあまり言葉を交わさない。まるで、他人と暮らしているかのような感じ……。親にさえ息苦しさを覚える。

自分のこもった息で暑さを感じ顔をふと上げる。いつの間にか先生が教室に来ていた何か喋っているけど、ほぼ上の空状態だった私は理解出来ない……。

「じゃあ入って来て」

先生が閉められた教室の扉の先に話しかける。みんながそちらを向くと、ガラリとドアが開いて、女の子が入って来る。私の目は彼女に釘付けとなる。
肩より長い茶色の髪、色白の肌と、通った鼻筋、切れ長の優しい目……。その子はまさに美少女というに相応しい。

「自己紹介、お願い」

「はい。廣瀬唯(ひろせ ゆい)です。T市から来ました、よろしくお願いします」

軽く会釈する彼女……。私は彼女を見つめながら、生唾をゴクリと飲み込んだ。ふと彼女と目が合う。
口角を軽く持ち上げ微笑んで来る、体が一気に紅潮して私は顔を逸らした。嬉しさと恥ずかしさで、体が熱い……。

「廣瀬さんの席は……沢成さんの横ね」

「……えっ…! あ、はい!」

突然名前を呼ばれてハッとするも、すぐさま彼女の為に机と椅子を用意する。その間彼女は私の様子をじっと見ていた。用意し終わると、私は“どうぞ”というように彼女を見る。

「ありがとう、沢成さん」

彼女はまた私を見て優しく微笑んだ。胸がキュンとなる。私は首を横に振り、自分の机に座ると心臓を押さえた。鼓動がとても速い……体がとても熱い……。


ーー夏のせい、なのだろうか……ーー