滴の溢れない瞳は、まだ現実を受け入れることができていないというしるしだろう。



「冗談でこんなことは言いません。これを見てください」



そう言って医者が差し出したのは、1枚の新聞記事だった。


そこに書かれていた記事を見たとき、あたしは思わず息を呑んだ。




《新種のウィルス 発見される

20××年6月30日、●●県の病院で、新種のウィルスが発見された。
このウィルスは人体に入り込むとわずか24時間で死に至らせてしまうという悪性のもので、現在治療法はわかっていない。

また、このウィルスによる死者数は100人を越している。

症状はまず、皮膚のどこかに痣があらわれる。
そしてその痣は、本人が気づかないうちに成長し、わずか3日程で直径約10㎝まで達するという。

発症者が病院に駆け込んだ時にはすでに手遅れというケースも多く、死亡する人がほとんどである。
痣以外の発症はなく、見つけるのは難しい。