ほんの5時間前には娘の死を宣告され、得意な料理だって、手につかなかったはず。


それにプラスして、翔のプロポーズ。


お母さんが目を丸くするのも、仕方がない。


でも───…。



『お願いします。美音がもうすぐいなくなってしまうのは分かってます。
だから…
最後に、幸せな思い出を作ってあげたいんです。
お願いします!!』



しまいには、翔は土下座までして頼み込んでくれた。


この行動も言葉も、すべてがあたしの為なんだって考えたら、思わず涙がこぼれそうになった。


だけど、泣かないって。

笑って時間を過ごすって、決めたから。


あたしは翔の隣に並んで、土下座した。



『お母さん、お願い…!
あたし、翔と結婚したい!
少しでも長く、翔と一緒にいたいの!!』



静まり返った部屋には、時計が時を刻む音しか響いていなかった。


その音すらも、あたしたちの不安を煽る。



『…翔くんは、それでいいの……?』