あたしだって、このまま翔のそばにいたら病気をうつしてしまうかもしれないんだから。


築30年の床がギイギイとうなる度、あたしの心臓の鼓動が増していく。


受け止める、って決めたはずなのに、翔が近付いてくるのが怖い。


翔に降られてしまうのが、恐い。


やっぱりあたしは、全然強くなんてない。


弱いままなんだ。



翔の姿を見ることができない。翔の瞳を見ることが、できない。


風で揺れるカーテンの音や

夕飯の準備をするお母さんが、食器を出したりしまったりする音が

嫌なくらいに、あたしの耳に響く。


ゆっくりと近づききった翔は、あたしの目の前で止まり、そして静かにしゃがんだ。



「美音。今から俺の言うこと、ちゃんと聞いてて?」



言い聞かせるみたいに、優しい翔の声。


いつもならその声に甘えてしまう。


それなのに今は、その声を聞いていたくない。


「…嫌…」


涙なんか…枯れちゃえばいいのに。