いつまでも君が好き

「お前ら! 静かにしろ! 騒ぐな!」

 野太い男の人の声が、耳に痛い。

 私はその大声に顔をしかめながら、それでも状況を把握しようとしていた。

 本当は耳なんて塞いでしまいたいのだが、そういう訳にもいかない。

 私はそっと前方の様子を窺ってみた。

 そこにいるのは、準斗の言った通り、サングラスとマスクをして帽子を被った男の人。

 男の人は右手に持ったナイフを時折人に向けながら、とにかく騒いでいた。

「よし、そのまま動くなよ。余計な声も出すな」

 男の人の声が合図だったかのように、電車は何事もないかのように動き出す。

 さっきの悲鳴も、運転手さんや車掌さんには届かなかったみたいだ。

 それに、もし届いていたとしても、下手に動いたらお客さんの命が危ない。

 きっと動けないんだろうな……。

 ごくりと唾を飲み込む私の隣では、準斗が悔しそうに顔を歪めていた。

 そうだよね……。動物園、行きたかっただけなのにね……。

 私にも準斗にも、もちろん他のお客さんにも。

 この状況を打破できる人は、一人もいなかった。

 男の人はそのことを知っているのだろう。得意気に微笑みながら、ナイフを振っている。

「なぁに。変に動かなきゃ、傷つけたりはしないさ。俺は次の駅で降りる。それまでは付き合ってもらうけどな」

「次の駅までは、約十五分だよな……」

 準斗が歯を噛みしめながら呟く。

 見えないと分かっていながらも、私はこくりと頷いた。

 十五分……。その間だけ大人しく座っていれば、少なくとも傷つけられたりはしない。

 だったら素直に、そうしていればいいだろう。


 私がそう思うのと、準斗が立ち上がるのは、ほぼ同時だった。