「あたしのために、そこまでしてくれなくていいよ!……もう会わないっていうなら我慢するから」
本当はすごく嫌だけど。
だけど、
「千遥、俺が海外に行くのは俺のためでもあるんだ」
「桐生のため?」
「俺が会いたくなっても、そう易々とは会えないようにしたい」
それって……、
「千遥、俺もお前のことが好きなんだよ」
理性的に、理性的にとなるべく気持ちを落ち着かせていたのに。
どんどん桐生への気持ちが溢れてくる。
涙が、止まらない。
その日は桐生と一緒にベッドで寝た。
これがきっと最初で最後。
眠ることなんてできなかった。
目を開けた時桐生の姿がなかったら、と思うと怖くて……。
泣く私の背中に桐生の大きな手が回され、背中をさすってくれる。
泣き疲れやがて目を閉じる私。
不意に、唇に柔らかくて暖かい感触。
桐生の唇だろうか、
頬に雫が落ちる。
これは私のものじゃない。
うっすら目を開けると、そこには泣く桐生の姿があった。
どうして、
あたしも桐生が好き、本当に好き。
やっと両想いになれたのに
なのに、どうしてこんな別れ方しかできないの?
いつか、この別れが正しかったと思える日が来るの?
いつの間にか深い眠りに落ちていた。
目を開けた時、彼はすでに隣にはいなかった。
彼の残り香がほのかにただようシーツを抱きしめ、声にならない悲鳴をあげる。
テーブルの上には残された手紙。
本当にこれが最後だったのだと思うと胸がぎりぎりと締め付けられる。
『千遥へ
きっとこれからまた芸能界で傷ついてへこむことがあるだろうけど、
お前はそこで折れずに立ち上がれる根性があるから。
だから、俺のことなんて若い頃の過ちとでも思って忘れてくれ。
千遥の活躍を近くで見ることができないのはすごく残念だけど、遠くからずっと応援してるから。
だから、いつもの負けん気で頑張れよ。
もしお前がこの先もずっと俺と会いたいと思っていてくれたら、
俺は、お前が女優として成功した先にいる。
そこで会えるのを楽しみにしてる』
ぎゅっと手紙を握りしめる。
何なの、これ。
もう、何が何でも芸能界でのし上がって、
成功してやるしかないじゃない……っ