アイドルとボディガード


藤川さんから明日の仕事の詳細を聞くと、奴は早々に事務所を後にした。

私は社長や藤川さんから奴の情報を仕入れていた。



奴は、桐生京介というらしい。年齢は24。

民間の警備会社から派遣されて来たとのことだった。

顔は黙っていれば格好いい部類に入るだろうけど、私は苦手な顔だ。
切れ長でちょっとたれ気味な目に、筋の通った高い鼻。

体つきは、ボディガードとしてはちょっと物足りない。

ひょろひょろな藤川に比べたらしっかりしているようだけど、というか……。


「いやー、格好良かったねー。スタイルめっちゃ良いし、最初モデルの人かと思ったよ」


そうモデル体型という奴だ。
すらっと背が高くて、足が長くて。
事態を見守っていたアイドル仲間の一人が甲高い声をあげてきゃっきゃっと騒ぐ。


「いいなー、いいなー。私もあんな人に守ってもらいたーい」


それに同調するかのように、他の女の子達も興奮冷め切れぬように私に羨望の眼差しを向ける。

悔しいけど、自分でもそれを認めざるを得ない。

奴は、業界でぼちぼち芸能人慣れしているアイドル達に格好いいと騒がれる程の男だった。

社長は奴の経歴だけは教えてくれなかった。
きっと経歴を知っているのは、面接をした社長だけ。
その社長にさえ、真実を語っているか疑わしいような奴だが。




私は家に着いても気が休まらなかった。

奴は、桐生京介とは何者なのか。

そして明日、奴が迎えにくるということに私は撮影日前だというのに全く寝付くことができなかった。

そんな最悪のコンディションで朝を迎えた私。
眠い目を擦りながら、家で待つ。

オートロック式のマンションに私は一人暮らしをしている。
外で待つのは危険だから、家の前まで着いたら私の携帯に連絡が入るようになっている。

しかし、奴は約束の時間になっても一向に連絡をよこさない。

私は、冷静になって家から撮影場所までの距離を考えた。

これでは、入りの8時に遅刻してしまう。
青ざめる私。

旬とは言われているものの、まだまだ駆け出し中の身だ。
遅刻なんて厳禁。

私はそわそわしていてもたってもいられず、家から飛び出しマンションの前で待った。


ブーンという排気音、遠くから見える奴に似たシルエット。

まさか、まさか奴じゃないでしょ。
なんでなんで、そんな……っ。
そう願うも、悲しくもその二輪車は私の目前で止まった。


「バイクっ!?」


衝撃的過ぎて早朝の路道だってことも、自分がアイドルだってことも忘れてそう叫んでいた。

そんな驚きを隠せない私に、奴は涼しい顔して何か問題でも?と言わんばかりに私にヘルメットを投げてきた。


「早く乗れ。遅刻するぞ」


そして放たれた言葉は私をまた逆上させた。


「一体、誰のせいだと思ってんの!?」

「てかお前それで乗んの?」

「え?」


ちらっと私のスカートを見る。
何?変態?あんた変態だったの?
私は、白いノースリーブのシャツに紺色のスカートを履いていた。


「いや、別にパンツ丸見えになってもいいならいいけど」

「い、いいわけないでしょー!」


私は悲鳴のような声をあげ急いで家に戻って、ショートパンツに履き替えると非常識な奴の元へと走った。